COLUMN #150 いい人生だった

今年の5月、私たちは山梨県金峯山にのぼり、建築家 保坂猛のHOTO FUDOで山梨名物のほうとうを食べ、ほったらかし温泉に入る予定だった。
山頂でご飯を作る準備までしてたのに、なんと登山道の入り口が積雪のため通行止め。再開は翌週。がーん。まあしょうがないと、かわりに行ってみたダムにはハイキングコースがあり、誰もいない湖から川辺へと出て、裸足で土と岩を感じた。
川遊びのあとはお腹がすいて、走らせた車内からは老舗らしい食事処をたくさん通り過ぎた。私たちは見過ごせず、少し先にある歴史のありそうなほうとう屋さんに入ることにした。お店の名前は忘れたが、そこは誰かが住んでいただろう古民家で、縁側の先にある池付きの庭を眺めながら、人生初めてのほうとうをいただいた。目を閉じてしまうほど美味しくて、野菜の甘みを感じる汁が疲れた体に染みわたった。
最後は、ほったらかし温泉。一緒に入ったのは、初めて温泉に入るというベルギー人の女友達。初の温泉エクスペリエンスは、言わずもがな極上の露天風呂と盆地景色に感動したようで良かった。
さてここまで、この日の出来事を言葉に書き出してみたけれど、なんだか実際心にとどまっているものは言葉にできていない気がする。おそらく私にとってこの日を特別にしたのは、「全然予定通りじゃないけど楽しかったね」という状況とか、そう言える人たちと一緒にいられたこと。
どこに行った、何をした、という出来事の『あいだ』にある、言葉にならない時間や感覚こそが、思い出を思い出たらしめているのかもしれない。
そんな瞬間は毎日の中にもあるはずで、うまい例えがでてこないけど、ぼんやりとなんだか楽しかったなと、あとからじわじわ思い出してしまうこと、ないだろうか。日々そんな思い出を重ねていくことで「いい人生だった」と言って締めくくれるかもしれない。
なんて、先のことまで考えてしまうほど、今日もじわじわ思い返してしまうような一日だった。
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