COLUMN #120 輪島への想い

まずはじめに。能登半島地震で被災された方々の1日も早い復興と、亡くなられた方のご冥福を心よりお祈りいたします。能登半島には行ったことがありませんが、元々、地方工芸品を取り扱うお店で働いていたので能登半島といえば輪島をすぐに想起します。SNSで知人の漆器作家の方が復興のために「漆芸に関する道具の寄付」を募っているのを見て、ニュースで散見する現地の状況に現実味が追いついてきました。もちろん、どの土地で災害が起きても悲しいことで、誰かの支援のキッカケになればと、能登半島の地場産業、輪島塗について記したい思います。
そもそも漆器とは、木の樹脂から採集した素材のことを指し、古くは1万年以上前から日本にあったとされます。本当の漆を用いた漆器は、埃がたたないような空間で、塗っては乾かし塗っては乾かしを繰り返し、決して大量生産ができないジャンルです。黙々とこなす仕事量が漆器の頑丈さを生み出します。実際、発掘された漆器の木の部分は朽ち果てていても表面は朽ちていない事があると聞きます。そして塗り重ねることで生まれる美しさは多くの人を魅了してきました。歴史的にもマリーアントワネットがコレクションをしていたなど、海外にも多く輸出していた事が史実に残っており、漆器のことを英語で「japan」とも呼ぶそうです。また、塗りの技術に大きく影響を与えマネされたものが、それまで木目だったピアノに施され黒い塗装になったそうです。これだけでも、日本にとって漆器は特別な工芸ともいえますが、その中で輪島は国内でも屈指の漆器の産地と云われています。
それは分業により昂めた塗りのクオリティがあり、絢爛豪華な表現が世界には無い唯一無二のものを作り上げたのでは無いでしょうか。そして、輪島塗が飛躍したのは塗師屋(漆器を製作・販売する人)という他の産地にはいなかった行商のような存在が大きかったようです。恐らく、全国を廻るため各地の情報収集をした塗師屋の話が、移動手段も無く電話やインターネットが無い時代にとって沢山の人が日本全国で楽しみにしていたに違いありません。
今、その歴史を紡いでできた土地と産業が壊滅的なダメージを受けています。”何処の土地だから”という考えは一切ありません。しかし、日本は内戦もなく島国の珍しい国で、その土地に足を踏み入れるだけで長い歴史を感じる事ができる素敵な国です。そこに住む全ての人の生業や生活によって土地の魅力がつくられています。このことを実感した年初でした。
繰り返しになりますが、この度被災された方々の平穏な日常が1日でも早く戻ることを、心からお祈りいたします。
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