COLUMN #110 Courage

Topic: ColumnWritten by Miho Koshiba
2023/10/20
110

オレゴン州ポートランド。そこはインディーたちの楽園だった。日本からもこぞってポートランドに行って、雑誌で見たものを追体験するように、ACE HOTELのラウンジで写真をとってインスタにアップしていた。少しでもこのインディーの薫りを自分もまといたくて。


寛容(Tolerance)、才能(Talent)、技術(Technology) の3つのTが備わった都市には、ゼロイチを生み出す力という意味でのクリエイティブな土壌がある、とリチャード・フロリダは『クリエイティブ都市論』で書いていたが、まさにポートランドはそのような街だった。街の議会制度もユニークでそのクリエイティビティを後押ししていたし、やりたいと思ったらなんとなく周りの空気感がそれを後押ししてくれるような雰囲気が漂っていた。


しかし、コロナ禍を経た今、当時の風景は無くなったしまったという。ポートランドに移住して20年超、今もポートランドで商売をしているKatsuさんが一時帰国中にフラッとMIDORI.so NAGATACHOに顔を出してくれたので、今のポートランドについて話を聞いた。


あのACE HOTELはコロナの打撃で売却され、その隣にあった美味しいイケてるレストランもガラスが割られてもうやっていないという。残ったのは、というか増えたのはホームレスだけ。コロナの打撃に加え、Black Lives Matter運動が過激になったことも街が変わってしまった要因だそうだ。警察を呼んでも1時間経たないと来ないらしい。ポートランドの現状を小耳にはしていたが実際に聞くと「現実なの?」と耳を疑いたくなった。そして何となくささーっとブームが去って、誰もポートランドのことを口にしなくなった状況に罪悪感のようなものを感じていた。


一方Katsuさんは、現状をその場で見ながらも、商売を辞めることなく新しい挑戦を始めていた。コロナ時期まで借りていたお店は閉め、もっとダウンタウンの一等地(Targetがあったところなので賃料は本来ならばバカ高いはず)に日本のいいものを集めたお店を開いた。こんな世情だから家賃は激安。隣3軒は全くテナントが入らず、歩合制で貸すといってもなかなか入らないし、ホームレスがお店の商品を持っていくなんて日常茶飯事らしいが、それでも始めているKatsuさんの勇気たるや。状況がネガティブとはいえ、コロナ前までは、都市の発展によってジェントリフィケーションで地価が上がり資本があるものしか参入しにくくなってきたという側面も見えてきていたポートランドがまた一から始める人にも寛容になりはじめているということでもある。そこにKatsuさんは賭けている。


アメリカという国の問題や日本の今、世界情勢など悲嘆し始めたらキリがないが、自分がやりたいことをやっていく勇気と信念にちょっと励まされた。

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