COLUMN #102 Kawaii

「女子力高いね。」
そう言われるのがなんだか苦手だ。わずかながら他の人より丁寧に生活をしたり、甘いスイーツや可愛いものを好むだけで、そう言われてしまうんだから。外れたシャツのボタンを丁寧に取り付けているときにその言葉を投げかけられたこともあった。ボタンの付け方なんて家庭科の授業で習ったじゃないか。
90年代前半、幼少の頃の僕は喫茶店でチョコレートパフェを食べるのが好きだった。生クリームにバニラアイス、その上にはカラースプリンクルとチョコがたっぷりかかった可愛らしいパフェ。ある日、母と母の友人と一緒に喫茶店に行くと、スーツを着た中年の男性が嬉しそうにチョコレートパフェを口に運んでいた。その時、母の友人がこう言った。「いい歳した男がパフェを食べるなんてみっともないわね」と。母もそれに同意し、”うんうん”と頷いていた。2023年にこれを読んでいる人には信じてもらえないかもしれないが、当時は甘いものを食べていいのは女性か子供だけ。成人男性が甘いものを好きと言うだけで白い目で見られてしまう今ではありえない時代だったのだ。幼いながらも「おじさんになったらパフェが食べられなくなる…。」と暗い未来を想像しては悲嘆しながら甘くて美味しいチョコレートパフェを口いっぱいに頬張った。
時は流れ2000年代。とある女性アーティストが「女の子に生まれたけど私に一番似合う色は青」と歌っていた。女の子はピンク、男の子はブルーというジェンダーバイアスがまだまだ色濃く残っていた。2000年代でさえその調子だ。それから2010年代あたりになるとスイーツ男子という言葉が生まれ、なにやら世間の風向きが変わってきたのだ。
そして2023年現在、ピンクであろうが何色だろうが、甘いものであろうがしょっぱいものであろうが、年齢や性別に関わらず、それを好きだと口に出すことが許されるようになったような気がする。アニメが好きだと告げても、冷たい視線を感じることは少なくなり、男性グループでテーマパークに繰り出しても以前のような嘲笑の対象にはならなくなった。男の子だから、女の子だからといったことにあまり縛られず、その境界を気にしなくてもいい、そんな風潮が確かに広がっているように思う。でも、まだまだ自分の好きなことを当然のように表明することができず、周囲の目が気になって自分の欲望を遠慮してしまう人々もいる。
誰もが、他人の視線を意識することなく、当たり前に自分の好きなことを好きといえる社会が訪れることを祈りつつ、今日も僕はかわいいパフェを口いっぱいに頬張っている。
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