COLUMN #101 漫画と私とお骨

Topic: ColumnWritten by Reiko Matsunaga
2023/8/18
#101

過日、地元新潟に帰省し、ソウルフードの背脂ラーメンを食べた帰りの車内。私が座る後部座席中央のシートベルトの差し込み口が見当たらない。大型トラックがひっきりなしに行き交う国道8号線、運転手は父(74)。シートベルトに絶大な信頼を寄せている私はなんとも心許なく、乗り合わせた家族に、もしもの時は自分の骨はお墓に入れず、土に埋めるか海なり森なりに撒いて欲しいことを伝えた。動じない両親。娘の突飛な言動に慣れているのである。


もとより私は自分の骨に愛着があるわけでも日本の埋葬に異論があるわけでもなかったが、「ミステリと言う勿れ」の作者として知られる田村由美の「7SEEDS」という漫画を読んで以来考えが変わった。7SEEDSは隕石による人類滅亡の危機を防ぐための政府のプロジェクト名で、自分の意思とは関係なく冷凍保存された若者たちが、人類も文明も滅んだのちの世界でサバイブしていく物語だ。そこに登場する角又という人物が、大好きな人の墓を作ってやれなかったと嘆く仲間に、こう声をかける。


大地に溶けて本当に土に還った人たちは

今自然の中で一緒くたになって

そのすべてのなかにいる


降ってくる雨の中にも

草や木の緑の中にも

土や岩や小石の中にも

風の中にさえ


死んでいった人たちはそこにいる

いつでもいる


7SEEDS 6 【雨水の章3】よりー


角又はその後、生き別れた恋人の死に直面し、墓や葬式は残されたもののために必要なのだと悟るが、私は手向け歌のようなこの言葉が好きだ。身近な人の死は、その人の不在をどこにいても色濃く感じさせる。けれど、自然の中に八百万の神々を見てきたように、その存在をいつもすぐそばに感じることができるのだとしたら、残された者はどれだけ救われるだろうか。


仏教の始祖仏陀は、「死んだ後のことなんてどうでもええねんで」と言っており、私も概ね賛同だ。だが見送る側にとってはどうだっていいわけはなく、土葬も火葬も、散骨も納骨も、それぞれが誰かを慮った結果なのかもしれないと思うと、もともと好きだったお盆の墓参りの風景が、ますます美しさを増してこの目に映る。


子供の頃、らんま½ の面白さに衝撃を受け、以来、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しい時も、私は漫画を愛し、敬い、慈しんできた。前職では漫画に囲まれて働きたいと某中古本屋で働いていたし、老後は麻雀のできる漫画喫茶を営みたいと思っている。振り返るとこれまで漫画と共に歩んできたが、果たして漫画は人生を変え得るだろうか?


断言できるのは、漫画は思想を変え得るということ。将来先祖の眠る墓に一緒に納骨されるはずだった私の骨は、この作品に出会ったことにより長い年月をかけて土に還り、雲に、花に、雨になる。そして残された者の心をきっと少しだけ、癒してくれる。そう願う。

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