COLUMN #100 Que Sera, Sera

Topic: ColumnWritten by Yuko Nakayama
2023/8/4
Que Sera, Sera

Que Sera, Sera

23時過ぎ、帰宅途中でシェアサイクルの返却を忘れていたことに気づく。慌てて問い合わせをしたら、利用開始時間から今までの料金がかかる、と鉄壁のような冷たい声が4,290円の請求額を私の耳に伝えてきた。実質利用時間は朝の3分間だけなのに、なんとも悔しい失態だ。電話を切り、苛立ちながら、今すぐサービスを解約してやる!と衝動的になり、その方法を調べたがやり方がいまいち分からず断念した。そして、歩きながら少しずつ冷静さを取り戻していった。(人間は苛立ちを覚えたら、まずは歩くべし。)

近所のワイン屋でワインを1本買って帰ろうと思っていた私は、今回の勉強代がワイン代とほぼ同じであることに気づいた。普通なら、ここは我慢するところだと思うが、その思考は通り過ぎ、私の足は自分の欲を満たすためにワイン屋に向かっていた。お目当てのワインを手に取り、カウンターで会計を待ってる間、「olio」と書かれた大きな円柱型のオリーブオイルが目に入った。ラベルをよく見ると、とても美味しいワイン[ Le coste ]のエチケットデザインに似ている。聞いてみると、まさにそのワイナリーのオリーブオイルだった。ワイン生産者がブドウだけではなく、他の作物を育てることはごく普通のことであり、オリーブもその1つとして作っているそうだ。確実に美味しいという漠然とした信頼の上で「これもください」とつい声が出てしまった。値札は一切見ず、我ながら粋な買い物をしてしまったと思う(笑)。買ったワインと1リットルのオリーブオイルが2つ仲良く並んで袋に入れられた。お金の失敗をすると金銭感覚が狂ってしまうのか?もはや私の頭はそんなことよりも、この貴重なオリーブオイルをどう料理しようか、誰と食べようか、今日買ったワインも一緒に飲もう。そんなほんわかとした幸せな未来の妄想に覆い尽くされていた。店を後にし、家まであと数百メートルの道で、ご近所さんにばったり会った。「この間はどうも」と世間話をして、今度一緒に飲みましょうと楽しい誘いにニヤニヤしながら「おやすみなさい」とその場を去った。30分前の悔しさや悲しさはどこへやら。

欲満たしのワインにバカ高いけれど素晴らしい味であろうオリーブオイル、予期せぬご近所さんとのたわいもない夜の会話。それらが私を変えていく。自分の失態により失ったお金なんて屁の河童と思えるくらいもっと仕事をしてやる!と、力強いバネが己の中にニョキニョキと生えてきた。「明日も一生懸命働くぞ(稼ぐぞ)」と違った意味で頑張れる時が、人生にはときどき訪れるものなのだ(かな)。

MIDORI.so Newsletter: