就職(してもしなくてもいい) 相談会 トークセッションレポート第1部 「働くの未来1」今までの働くではない価値観があってもいいじゃないか

2023年10月28日、MIDORI.so SHIBUYAにて『就職(してもしなくてもいい)相談会2023』を開催した。本イベントは、具体的な会社や職業を探すことを目的とした就職活動のための相談会ではなく、参加型トークセッションやマーケット、相談会など、参加者が自由に意見を交換する場を作り、就職する前にまずはこれから自分がどう生きたいか・働きたいかを考え、より良い社会をつくる仕事や人と出会えるような機会を通して「働く」に対する視野を広げてもらうことを目的とした。
本レポートでは、相談会第1部『「働くの未来1」 未来予想図 今までの働くではない価値観があってもいいじゃないか』で語られた内容について紹介。ゲストスピーカーは、編集者であり、一般社団法人デサイロ/一般社団法人B-Side Incubator代表理事の岡田弘太郎さん、株式会社オカムラにてWORK MILLの編集長を務める山田雄介さん、リメイクブランド「途中でやめる」デザイナーの山下陽光さんの3名。MCはMIDORI.soコミュニティオーガナイザーの澤真俊。
Writing : Tamao Yamada
Photo : Reiko Matsunaga & Popi Takahiro Yanakawa
Edit : Miho Koshiba

岡田弘太郎さん(編集者 / 一般社団法人デサイロ代表理事)
一般社団法人デサイロ代表理事。一般社団法人B-Side incubator代表理事。『WIRED』日本版エディター。クリエイティブ集団「PARTY」パートナー。そのほか、アーティスト・マネジメントやスタートアップの編集パートナーなどを経験。アーティストや研究者、クリエイター、起業家などの新しい価値をつくる人々と社会をつなげるための発信支援や、資金調達のモデル構築に取り組む。1994年東京生まれ。慶應義塾大学にてサービスデザインを専攻。「Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2023」選出。

山田雄介さん(株式会社オカムラ / WORK MILL 編集長)
中学・高校時代を米国で過ごし、大学で建築学を学び、人が生活において強く関わる空間に興味を持つ。住宅メーカーにて住環境のプロデュース企画を手掛け、働く環境への関心からオカムラに入社。オフィス環境の営業を経て、現在は国内外のワークトレンドのリサーチやオフィスコンセプトの開発、メディアの企画、編集と幅広い業務に携わる。一級建築士としての顔ももつ。
デジタルがもたらした価値観の移り変わり

これからの働き方を考える上で最初に話題となったのは、就職の価値観の変化について。東日本大震災やCOVID-19の流行によって、オフィスの必要性が問われたり、リモート勤務が当たり前になったりと、これまで一般的ではなかったデジタル上で完結する働き方が社会的に受け入れられたことで、「働く」対価として受け取る報酬の感覚にも変化が起こってきたという話が展開された。
山田雄介(以下、山田):今ってお金は銀行に振り込まれますけど、手渡しでもらっていた時の重みって、結構感覚が違うと思うんですよね。デジタルかリアルかで価値観の置き所は変わってくるのかなと思います。例えばアーティストの方がSNSを通した活動以外に、実際にライブ等のリアルな場所で活動しているっていうのは、やはりそこに価値を求めているからなんじゃないかと思うんです。
岡田弘太郎(以下、岡田):仕事でご一緒しているアーティストの方も、今はファンとのコネクションがなくなったような感覚があるという風におっしゃっていました。ストリーミングの時代になったことで、ファンとの繋がり方がただの再生数になってしまったんですね。本来は曲を聴くだけではない深い体験を一緒にすることが重要なはず。デジタルによって失われていった関係性や密度をどう取り戻すかということが今の時代ものすごく重要なんだろうなと思います。
山下陽光(以下、山下):なんか実感が欲しいっていう感覚はありますよね。レコードをかける仕草やCDを探すことも、自分の好きだった「行為」を取り戻したいみたいな感じ。
簡単に始められる時代だからこそ、長く続けることが価値になっていく

トークは、価値観の話から具体的な働き方について移る。働き方とは「職業」といった分かりやすい型だけに当てはまるものではなく、どのような態度で生きたいのか、働きたいのかという自身の在り方を考えるところから始まる。働き方はどのようにデザインできるのか(しているのか)、それぞれにお話を伺った。
山下:小さい起業みたいなものを連発した方がいいと思うんですよね。修行だと思って新卒でまず2年間働くのもいいんだけど、その2年間に「海外を放浪してました」っていう方がフックは多分強いんじゃないかなと思います。
山田:リモートワークや副業等、職業を複数持てる選択肢が増えている中で、それができる企業に勤めるか、起業するのか、フリーランスで働くのか、働き方が多様化していることはとても良いことだと思います。僕の場合は会社員ですが、会社を投資家だと考えていて、自分のやりたい企画に対して、会社の思惑に寄り添えたら資金を提供してもらいアウトプットを出すという考え方で働いています。
岡田:今は起業ひとつとっても立ち上げを支えてくれる様々なサービスがあり、新しいことを始めるハードルは下がっている気がします。だからこそ、これからは「続けること」がものすごく重要になってくるようにも感じます。デザイロもそうですが、スタートアップやソーシャルセクターなど事業の公共性が高くなっていく中で活動が止まってしまうと、その受益者が困ってしまいますよね。簡単に始められる時代だからこそ、長く続けることにどうコミットするかが重要になっていくんじゃないかと。
山田:それでいうと、今勤めている会社に、働き方について40年間研究している方がいらっしゃるんですね。同じ企業に同じ職種で40年間勤めていて、業界ではレジェントになっている方なんですけど、それって今考えるとすごいことだなと。多様な働き方が当たり前になってきている時代の中で、同じ場所で同じ仕事をずっとやり続けられる人ってむしろ貴重で、そういう働き方こそ新しくなるんじゃないかなと思います。
働くモチベーションをどう担保する?

「続けること」の重要性が語られたことを踏まえ、トークは働くモチベーションをどのように維持するかについて移る。ゲストスピーカーそれぞれの「働く」に対するモチベーションについて伺った。
山田:今の会社は2社目で、気がついたら15年もありがたく勤めさせてもらっているのですが、僕の軸は、自分の興味関心に沿った仕事ができているかというところですかね。元々建築を勉強していて、「働く環境」に興味を持って今の会社に転職したので、その分野を探求できることがモチベーション。自分が企画提案したものに対して、会社とどうやって良い関係を築けるかを考えるのは大変ですが、「この仕事を続けられるんだ」ってところが大きなエネルギーになっています。また最近は、仕事内容ではなく、「こんな働き方がしたい」という環境や状態をいかに担保できるかも大事だと思っています。例えば、朝満員電車に乗って終電で帰るという場所にいたら、きっとどんな仕事をしていても嫌だと思うので、仕事内容だけではなく、自分が働きたい環境になっているかというところも、モチベーションの指標にしています。
岡田:僕は、モチベーションというより、働いていてテンションが上がる瞬間について話したいと思います。自分がエディターをしている『WIRED』は1993年にアメリカ西海岸で創刊され、その第2号に「世界中の脳の中のアイデアが繋がるネットワーク」に関する記事が掲載されたんですね。で、アメリカのショッピングモールで偶然この号を手に取った青年が、その記事にインスパイアされて創業したのがTwitter(現X)という話があります。『WIRED』日本版でも「WIREDを読んで起業しました」という方が結構いらっしゃるんです。先日も、一緒に仕事をさせていただいた企業の新入社員の方が、『WIRED』の記事でその会社のことを知って入社したと話してくれたのはとても嬉しかったですね。たとえ一人であっても行動につながるようなものを生み出したり、その人の変化からより大きなインパクトを世界に与えられるような仕事ができるといいなということは常に思っています。
山下:うーん僕は、モチベーションとかはもうないんですよね。みなさん、CLOVA NoteっていうLINEのサービス知ってますか?音声を起こしてテキストにしてくれるんですけど、今このトークセッションも全部録音してるので、後からCLOVA Noteに投げて、少し手直したら出版して売れると思うんですよ。実はここにいるだけで食えてるんじゃないかっていうぐらい飯の種はいくらでも落ちてますよっていうのが僕のオチかもしれないですね。

その後の相談会では、ある参加者から「面白いことを生み出すためにどのような工夫をしているのか?」という質問が投げかけられた。この質問に対し山田さんは自ら情報を探すことの重要性について語った。
山田:面白いことはある日いきなり生まれるのではなく、日々見た情報や景色が頭にストックされることで現れてくるので、僕は常に面白いことを意識してアンテナを張るようにしています。他人からのサジェスチョンを得やすい時代だけど、自分で情報を探すトレーニングを積み重ねることで、自分らしいアウトプットが生まれるんじゃないかなと思います。
今回のトークセッションで印象深かったのは、新しいことが始めやすくなった時代だからこそ、長く続けることの重要性や、生涯雇用が新しい働き方になっていくこと、自身の働き方を選択できる時代になったことで、自ら働くをデザインできる人がより満足度の高いキャリアを築ける可能性を示唆しているという話。何をするかを考えることが難しかったら、まずは自分がわくわくすることを知り続けてみることや、どんな働き方がしたいかという環境面から考えてみるのは良いのかもしれない。
就職(してもしなくてもいい)相談会 EVENT
就職だけでなく、働くを考える。
今から社会に出ようとする学生たちにとって、「会社に入る」以外の選択肢に触れられる機会が限られているため、多くの人は、社会人=会社人になることになります。就職サイトや会社説明会では、会社の中にいる人の声しか聞くことができないという実情もあります。限られた情報を基に就職活動をして、希望の会社に入れたのはよいけれど、会社に対する不平や不満がすぐに湧いてきたり、こんなはずじゃなかったと悩んだり、あるいは会社に酷使されて身体を壊してしまう人もいます。その原因は採用した会社だけにあるのではなく「働くとは何か」をよく考えずに就職するしかなかった学生自身、あるいは、そのような「働く」の多様性や選択肢を提示できなかった社会にもあるのではないでしょうか。
本当の「仕事」は求人票や就活サイトの中だけにあるものではありません。これから就職活動をする学生や今の仕事に悩んでいる人たちに、「就職」の前に「働く」ことをまず考えてもらうこと。それが本人にとっても、会社にとっても、社会にとっても、重要なのだと考えています。
就職だけでなく、働くことを考える。それが『就職(してもしなくてもいい)相談会』です。
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